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大阪高等裁判所 昭和50年(行コ)6号 判決 1977年12月14日

控訴人 阪上長一

被控訴人 泉佐野税務署長

訴訟代理人 辻井治 大河原延房 ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実<省略>

理由

一  当裁判所も控訴人の請求は理由がないと判断するのであるが、その理由は、次のとおり訂正、附加するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

(一)  原判決九枚目表四行目から同九枚目裏一一行目までを次のとおり訂正する。

措置法三八条の六の規定は、企業における産業設備の合理化、近代化ならびに工場移転による産業立地の改善等一般に資本の有機的活用を図るため、特定の事業用資産を譲渡し買換資産を取得した場合に、一定の条件のもとに買換資産に譲渡資産の取得価額を引き継がせる方法による譲渡所得の課税の繰延べの特例を認めるものであつて、そこにいう「事業」には農業が含まれるものと解される。ところで、右規定の「事業の用に供しているもの」とは、営利を目的とし、自らの危険と計算において継続的に行う業務のために使用することをいい、単に資産を現状どおり維持するために一時的に他人にその使用、管理を委ねるにすぎないような場合を含まないものというべきであり、また、資産が譲渡された当時現に事業の用に供されている場合のほか、譲渡当時には事業の用に供されていない場合においても、従前事業の用に供されていて、その供用が停止されたのが資産の買換をはかる目的から出たものであり、かつ供用停止後譲渡までの期間が右買換のための準備をするのに要する相当の期間である場合をも含むものと解するのが相当である。けだし、資産買換のための譲渡をなすについては相当の準備期間を要し、その間事業のための供用の停止を必要とする場合があり、その間はたとえ現実に供用を停止していても、なお右規定の適用を認めることが前記の立法趣旨に懲して妥当であると考えられるからである。

これを本件についてみると、前記の事実によれば、控訴人は、昭和三八年に本件土地のうち原判決添付別紙物件目録一(二)(3)、(8)ないし(12)、(15)を取得したあと、(9)、(10)の田を一年間自ら耕作しただけで採算がとれないところから自ら耕作することを断念し、翌三九年から本件土地が譲渡された昭和四四年三月まで約五年間自らこれを耕作したことはなく、その間昭和三九年から昭和四三年までは中義治に右土地を無償で耕作させていたのであるから、控訴人が右(9)、(10)以外の土地を自己の営む農業の用に供したことはなく、右(9)、(10)の土地についても、その供用を停止した理由や停止後譲渡時までの期間などからみて、その供用停止の期間が資産の買換準備のために要する相当な期間であつたとは到底認め難く、従つて、控訴人がこれらの土地を自己の農業の用に供していたものとして右規定の適用を認めることはできない。控訴人は、中義治に右土地を耕作させることにより自らの出費を免れ田地の荒廃を防ぐという効果をあげていたと主張するが、中の耕作によつて右の効果があつたとしても、それはせいぜい右土地をいつでも自己の農業の用に供しうる状態で現状を維持していたといえるにとどまり、中の耕作を目して控訴人自身が右土地を自己の事業の用に供していたとすることはできないことは明らかであるし、中から何らの対価も得ていない以上、施行令二五条の六第一項を適用する余地もない。

(二)  原判決一〇枚目裏八行目の次に次のとおり加える。

さらに控訴人は、同一時期に同一物件を譲渡した田中旭については措置法三八条の六の適用が認められているから、税の公平の見地から特別の事情があるものとして、税当局は本訴において事業の用に供していないという新しい主張をすることは許されない旨主張するが、たとえ、控訴人主張のような事実が存し、課税処分の公平上の問題が生じたとしても、それは、田中に対する右規定の適用が認められたことにその原因が存するのであつて、右田中に対する課税処分の当否が問題となることは格別として、そのことを理由として本訴における被控訴人において右規定の適用がないことについての新たな主張をすることが許されないと解すべき理由はないから、控訴人の右主張は採用することができない。

二  よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井芳雄 乾達彦 山本矩夫)

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